とまと訪問看護リハビリステーションの武井です。
相変わらずクラスターメディカルのyoutubeを見ては、「俺、こんな風にしゃべってたっけ?」と映像編集の技に感嘆しきりの今日この頃です。
さて、今回は前回に引き続いて「利用者さんのご家族との関係」について書いてみたいと思います。
先回はなぜご家族との関係性が重要かということを中心に書きましたが、今回は、私が実際に経験した例を通してより具体的に書いてみたいと思います。
○利用者さんとご家族の乖離をそのままにして後悔した
以前の職場で担当した男性の利用者さんは、娘さんがキーパーソン(主介護者)で、その娘さんは私と顔を合わせるたびに「(父は)やる気がなくてなにもしないから、身体が動かないんです!」と憤ってらっしゃいました。
もちろん娘さんも頭では、お父さんは動かしたくても動かせない状態なのかも知れないとわかってらっしゃるんですが、元気だった頃の何事にも積極的なお父さんの様子をご存知なだけに、どうしても今の状態が受容できず、「やる気がない」と決めつけてしまうようになり、お父さんとの仲は険悪になっていました。
私にはこの利用者さんが身体を動かさないのは症状的な理由だと思えましたが、その頃の私には自信を持ってそう言い切れるほど知識がなくて。そしてなにより、まだ訪問リハビリを始めて日が浅かったので、「下手に何か言ってご家族との関係性を崩したくない」という思いが強く、結局娘さんに対してなにひとつ言えませんでした。
そして…その利用者さんが突然亡くなってしまわれたんです。
娘さんはずいぶん後悔されたと思います。そして私も自分の至らなさのせいで、娘さんにお父さんを責め続けさせてしまった、ケンカしたままにしてしまったとショックでした。
お父さんが自分から動かなくなったのには理由がある、こういう理由で動きたくても動けないのだと私の口からちゃんと説明すればよかったと心から悔やみました。
年配の男性利用者さんの場合、理由をいわずに「できない!」とだけおっしゃったり、「やりたくない」と拒否されたり、完全に黙ってしまわれる方も多いです。
でもその奥にある思いを理学療法士としての知識や経験をもとに代弁してあげることができるはずです。
医療者が客観的に「ちゃんと理解してますよ」ということを伝えれば、利用者さんには「わかってくれている人がいる」という安心感を持ってもらえるし、ご家族も冷静になれるでしょう。
○客観的に状況を伝えることで利用者さんと家族の間をつなぐことができた
先に書いたのはお父さんと娘さんの例でしたが、ご夫婦で奥さんが介護されてたりすると同じような例は多いです。
介護疲れもあって奥さんが感情的に、「(リハビリを)やらないんです!」と訴えてこられたり、ご主人が「できないんだよ!」というと「やってないでしょ!あなたはやらないでしょ!」と言い争いになることも。ご家族にしたらこれからどうなるんだろう、早くリハビリして治さないとたいへんなのになぜやらないんだという不安からつい強い言葉もでてしまいます。
私は先の経験をしてから、そういう時こそできるだけ客観的に利用者さんの身体の状態をご家族に伝えようと努力するようになりました。
iPadを活用して病名を伝えたり、資料を見せながらこの病気にはこういう症状がでるから「やらない」じゃなくて「できない」んですと説明したり。
すると、次第に奥さんの方も病気のことをご自身で調べるようになったり、「できる時はできる人だから」とか「わかってはいるんだけどね」という言葉がでるようになりました。
ご家族が頭ではわかってても言葉としてでてこなかったことが言えるようになると、利用者さんの反応も変わってきますし、より効果的なリハビリができるようになります。
○ご家族との良好な関係を築くために
訪問リハビリは利用者さんの自宅で行います。でもご家族にしたら、いくら家族(利用者さん)のためとはいえ、感じの悪い人間、信用できない人間を家に入れたくないと思うのは当然です。ですから実は関係性うんぬんの前に、「この人だったら家に来てもらってもいいな」「一緒にやっていきたいな」と思っていただけることが大前提なのです。
そのためには、社会人としてのマナーを守ることはもちろん、時には臨機応変に訪問家庭のルールにそって行動することも必要になってきます。
「また会いたいと思われる理学療法士」-これは私の学生時代からの目標なのですが、訪問リハビリに携わり、利用者さんのご家族との関係も重要だとわかってきてからは、この目標がますます現実味をおびてきたと感じています。