とまと訪問看護リハビリステーションの武井です。
前回に引き続いて、訪問リハビリの「家屋評価」について書いてみたいと思います。
今回は私たち理学療法士をはじめとする家屋評価を行う側の方に向けての内容です。
○家屋評価に基づいて環境整備を提案する時には十分な配慮を
私たち専門家の目からみて、「ここをこう変えるだけでずっとラクになるのに」と思うことでも、安易に提案することは危険です。
なぜなら、「椅子を変える」「家具の位置を変更する」といったことでも、利用者さんやご家族にとっては、「娘がプレゼントしてくれた椅子を使いたい」「昔からずっとこの場所にあったからここにないと気分が落ち着かない」といった思いがあるかもしれません。それを汲み取ることができなければ、いくら合理的なアドバイスでも、最悪、ご本人やご家族のストレス要因になってしまうことにもなりかねません。
環境整備の提案にあたっては、利用者さんやご家族の思いを聞くことも大事ですし、もうひとつ、「普段の生活スタイルから大きくはずれないようにする」ということを念頭に置いておくこともポイントだと思っています。利用者さん宅の普段のスタイルを踏襲した改善案であれば、ご本人にもご家族にも受け入れていただきやすいでしょう。
例えば、もう少し高さのある椅子にした方が良いと判断した場合も、現在使っておられる椅子に思い入れがある利用者さんには、「椅子を変えましょう」と言うのではなく、今の椅子にクッションや板などを併せて使って高さを調節することを提案します。それなら利用者さんの「この椅子を使いたい」という思いを壊すこともないので受け入れてもらいやすく、立ち座りが今よりラクになるでしょう。
また、便利かもしれないと思っていてもポータブルトイレを自分の居室に置くのはどうもイヤだという方には、見た目の抵抗感が少ない家具調のポータブルトイレを提案して、受け入れてもらったこともあります。
○家屋評価・環境整備ではプラスとマイナスの両方を考えることが大切
環境整備というと介護ベッドを導入したり手すりを設置するといった「プラス」することが主になりがちですが、同時に「マイナス」することも視野にいれましょう。現在の状態からなにかをマイナスすることでデメリットが解消できることもあります。
例えばモノを片付けるのも「マイナス」ですし、ご本人の意向、あるいは最初の状態では必要だったということでまるでジャングルのように手すりだらけになってしまったご自宅などは、介護されるご家族には邪魔になり、かえって危険な部分もあるため、撤去という「マイナス」が必要になってくる場合もあります。
また、プラス/マイナスという意味では、その提案は本当に気持ちよく生活していただくためにプラス(メリット)なのか、マイナス(デメリット)はないのか、ということを随時考えることも必要だと思っています。
○家屋評価後も利用者さんの状態が変わっていくことに留意を
訪問リハビリの利用者さんの場合、家屋評価を行ってもそこからどんどん状態が変わってくることもよくあります。もちろん良くなっていく方もいらっしゃいますが、悪くなっていくだろうと予想できる方もいらっしゃいます。
そのため、器具や設備などの導入、住宅改修には注意が必要です。最初にたくさん手すりをつけたり住宅改修をしてもすぐに実情とそぐわなくなって使わなくなることもあります。例えば、気合を入れて手すり取付工事を行っても、気付いたらハンガーラックになっている例も散見します。そういう意味では、使わないなら返却できる、やり直しが効くレンタルを利用するのも良い方法だと思います。
○訪問リハビリの「家屋評価」で、困った・難しかった実例
個人的な感想になりますが、私自身が一番難しいと感じているのは「片付け」です。居宅内にかなりややこしい段差があったとしても物理的になんとかする自信がありますが、片付けは一筋縄ではいかないですね。
入院患者さんなら「病室、片付けてくださいね」と上から言えば済む話ですが、在宅ではそうはいかず、利用者さんのライフスタイルや性格がストレートに反映されてしまいます。
例えばベッド周りのものが多すぎて起き上がりが難しくなっている利用者さんがいらっしゃるのですが、この方の場合、片付けが苦手なのではなく、「すぐ手の届くところにすべて置いておきたい」というのがご本人のこだわりなのです。そのため、説得してその時は片付いても、1週間後に訪問するとあっさり元の状態に戻ってしまっている。かといって命令するわけにもいかないし、常時傍にいる人がいないので誰かに片付けを頼むわけにもいかない。「少し片付けるだけでずっと起き上がりやすくなるのに」と思いながら、ジレンマに悩まされています。
あと、介護ベッドなどの福祉用具の導入を提案すると、業者というか営業だと思われてしまうことがあるのも悩ましいところです。
実際に使い始めると「ラクになった」「便利だ」と喜んでいただけるのですが、お金のからむことでもあるのでアプローチの仕方が難しいです。
このような場合、私はできるだけ、デモ品があるか福祉用具業者さんに確認して、ある場合は、まずデモ品を利用してもらうようにしています。とりあえず実物を使ってもらうと、利用者さんも納得して導入されることが多いです。
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訪問リハビリを行う理学療法士による家屋評価について2回にわたって書きましたが、その重要性と難しさをお伝えすることができたでしょうか。
最後にもう一度書いておきたいのは、利用者さんのご自宅で行う「家屋評価」には常に細心の配慮が必要だということです。
自分の家の中のことを、「ここがいけない」「これは変えた方がいい」と、いろいろダメだしされるのは誰にとってもうれしいことではないでしょう。
専門家としての理想形を押しつけて、利用者さんの城を荒らすようなことがあってはいけない――私はいつもそのことを肝に銘じています。